7.想のみらい

篆刻教室


印章に対する世界観や考え方を大きく広げるきっかけとなった篆刻教室。

篆刻作品

印章の原点は篆刻にあり。

通常の実印や銀行印などのいわゆる実用印は「篆刻」の技術を応用しています。一般的な実用印の勉強・修業を通し、この業界で生きてきた私としては「基本中の基本である篆刻を知らずして、ここまで来てしまった」との思いが常にあったんです。お客様から「石を彫ってくれないか」と依頼されれば、手彫りの技術はありますので、見よう見まねで何となく同じようなものを彫ってはいました。ただ、石に彫られた文字に対し、何が良くて何が悪いのかは深いところでは自分でも理解できていない。印章彫刻技能士一級の資格を取得したのを一つの契機と考え「原点に立ち返り、篆刻・すなわち、石を彫る勉強をしっかりしておこう」と再び学びの道を進む決意しました。

篆刻教室

本物に触れること。

最初は篆刻の勉強の仕方すらわかりませんでした。
そこで頼ったのは古巣、東京印章会館で行われていた篆刻教室。そこは一から手取り足取り教えてもらえるという初心者向けのものではなく、熟練の印章彫刻士が学ぶプロが集う学び舎でした。篆刻界で名を馳せる先生方、学んでいる先輩がたも日展や読売展などの全国公募展の常連ばかりの緊張感が漂う空間でした。時間をつくり地方から通うのはハードルも高いことでしたが、どうしても「本物に触れたい」との思いが強かったので、仕事のやり繰りをして通う日々がはじまりました。

篆刻作品

大胆な勢いが要求される石の篆刻

石は、象牙や柘材などを彫る現代実用印のように細かな線を少しずつ削る作業ではなく、むしろ毛筆のように一気に一筆で書くような彫り方が要求されます。一刀で力を入れれば深くも彫れるし、鋭くも彫れる。我々が普段行なっている彫り方とは、明らかに違うやり方なんです。
篆刻の先生の言葉を借りると「ハンコ屋さんでなまじ技術を持っている人は、石を彫る時に大切な勢いがない」と。文字をつくることにこだわりたいので、どうしても慎重になる分、慣れるまでは勢いが出せないんですよね。勉強を始めた当初は先生から「壊してもいいから、思いきり彫りなさい」というアドバイスを、よく頂戴しました。

篆刻作品

シンプルでぬくもりのある印章づくり。

篆刻の学びは、歴史に名を残す方々の作品を徹底的に模刻することから始まります。初めの数年は徹底して先人の作品を数多く鑑賞し、転写・彫刻を通してその筆意や彫刻の技法を習得していきます。数々の先達の文字を知ることにより、文字の歴史にも触れ、いかに自分の知識が浅学だったかを知ることにもなりました。以来、奥行きの深い文字学の世界に惹き込まれることになりました。それはやみくもに美しく目を惹く作品を作りたいと願っていた思いから、しっかりと文字の誕生から現代までの変遷を理解したうえで、その背景に宿る時代時代の人々の願いや祈りの結集である文字を「想いながら彫りたい」と考えるようになりました。
たとえシンプルでも、その文字からぬくもりが感じられるような印章を創ることこそ、私が望む究極の形。印章は自分の分身を表すもだから、長く使えて、また、使う程に愛着が増していくものであってほしい。そのためには「いつまでも大切にしたい」と思わせる何かが内側から自然と湧き出るような印章をつくりたいのです。